年末年始にドイツとオーストリーの4つのジャンプ競技場で行われるスキー・ジャンプの「ジャンプ週間」(Four Hills Tournament)で小林僚友選手が総合優勝しました。しかも4試合全てで優勝するという快挙。
スキー・ジャンプ競技が大好きな私としては大変嬉しく大興奮なのですが、日本のメディアの取り上げ方はイマイチなように感じます。
なので、ちょっとジャンプ週間と日本人選手に関して簡単な紹介を書いてみます。
ジャンプ週間(Four Hills Tournament)について
歴史は古く、始まりは1952-53年のシーズンからでワールドカップ*1よりも前から開催されていました。(ワールドカップは1979-80年から)
元々はドイツとオーストリーのスキー・クラブの対抗戦だったそうです。オートバイレースなら、英米マッチレースのようなものなんでしょう。
会場は、ドイツがオーベルストドルフとガルミッシュ・パルテンキルヘン、オーストリーがインスブルックとビショフス・フォーフェンという歴史のあるジャンプ台で行われます。
現在はワールドカップのシリーズ戦に組み込まれていますが、ジャンプ週間のタイトルは別格。オリンピックや世界戦選手権の優勝と並ぶ栄誉です。自動車レースのF1でのモナコGP、インディ・カーシリーズのインディ500、テニスのウィンブルドン大会のような格付けです。
ソルトレークとバンクーバーの二つのオリンピックで金メダルを4個(ノーマルヒル、ラージヒル両方で金メダル)獲得したスイスのシモン・アマンが今なお現役で頑張っているのは、ジャンプ週間のタイトルを獲得したいというの理由の一つらしいです。(アマンはまだジャンプ週間のタイトルを獲得していない)
ルールはちょっと変わっていて、4試合の計8本(1試合で2本飛ぶ)の得点の合計でトーナメントの勝者が決まるという事。試合毎の順位に基づくポイントでは無いということです。
なので、例えばA選手:第1~3戦を優勝し第4戦を2位、B選手:第1~3戦で2位、第4戦を優勝という順位でも、B選手の方が4試合総合得点で上回りトーナメントの優勝者という事も起こりえます。(例えば第1~3戦でA選手とB選手の得点差が僅差、第4戦でB選手がぶっちぎりの優勝、というパターン)
なので、優勝回数ゼロでもジャンプ週間の王者になり得る訳で、実際に何人もタイトルを獲得しています。
逆にジャンプ週間の4試合全てを勝った選手はなかなか現れず、あの鳥人といわれたマッチ・ニッカネン(フィンランド)ですら達成できませんでした。そのため4試合全てに勝利した選手に贈られるボーナス賞金は年々積み立てられ続け1億円以上になっていた、と聞いたことがあります。
初めて4試合全勝(グランドスラム)を達成したのは2001-02年のスヴェン・ハンナバルト(ドイツ)。続いて2017-18年のカミル・ストッフ(ポーランド)が達成しました。
小林僚友はストッフに続く3人目の快挙達成です。
日本人選手とジャンプ週間
今までで日本人選手でジャンプ週間で総合優勝したのは1997-98シーズンの船木和喜選手のみ。このときは第1~3戦を制し第4戦は8位で見事タイトルを獲得。
船木選手の前にジャンプ週間の総合優勝とグランドスラムに王手をかけたのが1971-72シーズンの笠谷幸生選手(札幌オリンピックの70m級の金メダリスト!)で、第1~3戦を優勝します。
しかし第4戦は欠場。理由は「札幌オリンピックの国内選考会に出場するため」。元々選考会とのスケジュールの関係でジャンプ週間は第3戦までの出場予定だったらしいです...“たられば”ですが、当時の笠谷選手の充実ぶりからして4戦目に出場していたらグランドスラムを達成していた可能性は高かったと思います。ヨーロッパの人達からもどうして4戦目に出ずに帰国するんだ!?とずいぶん言われたみたいです。
小林陵侑選手
葛西選手が監督を兼任する土屋ホーム・スキー部に所属。
ワールドカップ参戦は確か2015-16シーズンからで、デビューのときから非凡なジャンプを見せて期待されていた選手でしたが、昨シーズンまでワールドカップでの優勝はなし。表彰台もなし。
それが今シーズンは個人戦の初戦で3位、二戦目で優勝。現在で11戦8勝という驚異的な強さを見せています。日本人初のワールドカップ年間総合チャンピオンの可能性も大きくなってきました。
因みに同じワールドカップの遠征メンバーである小林潤志郎選手はお兄さん。潤志郎選手は昨シーズンのワールドカップ開幕戦(ポーランド・ヴィスワ)で初優勝を果たしています。
そのときのクリスタル・トロフィーは昨年の北海道地震で割れてしまったそう。それを知ったポーランドのスキー連盟が今シーズンのポーランドでの大会のときに新しいトロフィーを潤志郎選手に進呈したそうな。良い話です。
https://berkutschi.com/jp/front/news/9080
今年は2月に世界選手権も開催されるので、ワールドカップや世界選手権で兄弟揃っての表彰台も有り得るかもしれません。
また陵侑選手はワールドカップの年間最多勝利数(ペテル・プレフツの15勝)を更新する可能性もあるので、今シーズンは凄い記録を作りそうな気がします。