バイクでツーリングしていると、普通のツアー旅行では味わうの(素晴らしい景色に感動したとか、地元の食材を使った料理が美味しかった、とか)とはちょっと違う思い出が出来ることがあります。
今でも記憶に残るそんな思い出話をちょっと書いてみようと思います。
第一回目は「腹減ったなぁ」と呟いていた若者達です。
カレーライスに全てを賭ける!
あれは、大洗港から苫小牧港に向かうフェリーでの事でした。
大洗港を23時59分に出航し、苫小牧着は翌日の夕方。なぜ出航時刻が23時59分なのかは分かりませんが、兎に角、そんな時刻に出航なので、乗船したら直ぐに寝ることになります。
私は2等寝台を確保していました。2段ベッドのように、上下2段にベッドが並んでいます。このときも、私のベッドの区画はライダーが多かったようで、学生らしい3人のライダーが直ぐ近くに陣取っていました。
彼らはマンガ雑誌を読みながら、明日以降の予定をポツリポツリと語りあっています。お金に余裕の無い若者らしく(?)、会話がふと途切れたときにはだれとも無く、腹減ったな~ なんて気だるそうに呟く声が聞こえてきます。
一人が言いました。明日のメシはどうする?と。
するともう一人が、明日は飯代節約するために昼まで寝ている、といいます。
どういうことか、ちょっと補足しますと.....
フェリーの到着は明日の夕方なので、普通なら朝と昼の2回、フェリーの中で食事をすることになります。
当然、フェリーにはレストランがあって朝食も昼食も食べることが出来るのですが、値段がチト高いのです。料理の内容や味を考えると、街の普通の食堂より3~4割くらい高い。
それで彼は朝飯を抜かし、昼まで寝続けて空腹を凌ぐつもりだ、といっているのです。
自分もそうしよう、と賛同する声が聞こえました。
すると今度は、俺は昼のカレーセットに全てを賭ける!と言い出す者が出てきました。
サラダとスープがバイキングになっているので、まずはサラダとスープを2杯ずつ食べてお腹を膨らませ、それからおもむろにカレーを食べる。そしてまたサラダとスープを1杯ずつ食べて締めるのだ、と得意げに語っています。
それは良い考えだ!と皆がいいました。
明日の食事が決まったので、彼らの会話は北海道上陸後に移っていきました。時折、腹減ったなぁ、と言いながら。
曰く、苫小牧の**にある***というパン屋は、食パンの耳をタダでくれるらしい。
よし、上陸したらまずそこに行くことにしよう。
曰く、***というライダーハウスはご飯お代わり自由らしいぞ。
それいいな!そこに泊まろう。
そんな会話と、腹減ったなぁ...という呟きを聴きながら、私は眠りについたのでした。
翌朝。
彼らは昨夜の計画通りにぐっすり眠り続けていました。時折、私が自分のベッドに戻ったときも、3人ともグーグーと眠り続けています。
若者はやたらと腹が減るものですが、惰眠をむさぼる事が出来るのも若者ならではです。
やがて時刻は昼時となり、レストランが昼食の営業を始めました。しかし、彼らは誰一人として起きる気配がありません。
私は他人事ながら段々と心配になってきました。
やがて船内アナウンスで、レストランの昼食の営業はあと30分程で終了させて頂きます。まだ昼食をお済では無いお客様はお誘い合わせの上....といった案内が流れてきました。
おい起きろ!カレーセットを食べるんだろ、サラダとスープを2杯ずつ食べるんだろ、と揺すって起こしたいくらいですが、まともに会話すらしていない彼らにそんなことは出来ません。時間だけが過ぎて行きました。
ようやく彼らが目を覚ましたのは、ちょうどレストランが昼食の営業を終えた頃。
寝すぎちゃったな...。あぁ...。腹減ったなぁ...という力の無い声が聞こえてきました。
次に彼らを見たのはお湯を入れたカップラーメンを持って給湯室かれ出てくる姿でした。元気が無いのは眠気のせいだけでは無いでしょう。
彼らのその後のツーリングがどうなったかは知りません。
確かその年は冷夏で真夏なのにとても寒かったのですが、フェリーからバイクで降りていく彼らは街乗りスタイルの薄着だったはず。
多分、いろいろと大変な目にあったんじゃないかと思います。
でも今では楽しい思い出となっているんじゃないかと思います。
私自身も初のツーリングでは似たような失敗というか、ちょっと惨めな思いをしたことがあるのですが、何故か思い出すのは全然イヤではありません。
二十歳前後位までは何やってもどんな事でも楽しかったんだなぁって思います。
以上